日々のお手入れの話

短毛種のサマーカットを薦めない理由

毎日暑い日が続きますね。
今年は例年に比べ梅雨明けが早い。
ということは……
夏が長い!

6月の時点で既に各所で40℃越え。
人間にも犬にも厳しい夏が予想されます。

そこで多くなるのがサマーカットの注文です。
「暑いから短くして!」
「かわいそうだからいつもより短くして!」というオーダー。
気持ちはよくわかります。
しかし短毛種のサマーカット、実は要注意ですよ。

基本的に短毛種のサマーカットはやらない方が無難

当店では基本的に短毛種のサマーカットは薦めていません。

理由は、毛が生えなくなる可能性があるからです。
もしくは毛質が変わる
または毛量が薄くなるといった、いずれかの症状が高い確率であらわれます。
これを、《毛刈り後脱毛症(けがりごだつもうしょう)》といいます。

ここでいう短毛種とは、ポメラニアン、チワワ、ダックス、コーギー、柴犬など。

実際にはポメラニアンは短毛種ではないとか、シングルコート・ダブルコートといった様々な区分けはありますが、ザックリ言うとロン毛にならない犬種ですね。
柴犬の毛をいくら伸ばそうと思っても、キムタクのようなロン毛にならないですよね。
長い毛を引きずったポメラニアンっていないですよね。
それは一定の時期に毛が抜け落ちているからです。(換毛期)

犬の換毛期のお話 犬の換毛期とは一言でいうと、毛がめっっっちゃ抜ける時期のことです。人間だとリアルに落ち込む死活レベルの量が抜けます。 地域や室内...

よくSNSや雑誌などで、ポメラニアンを短くカットした『柴犬カット』や『子熊ちゃんカット』、『ふんわり愛されカット』や、首周りだけ残した『ワイルドライオンスタイル』といった写真を見たことがあるかと思います。
もしくは抜け毛が多くて大変という理由で、「いっそのこと短くして!」という飼い主さんも大勢いらっしゃいます。

ですが後々に毛刈り後脱毛症のリスクを考えると、やはり当店ではオススメしません

参考:ポメラニアンのサマーカット

毛刈り後脱毛症の事例

ここで毛刈り後脱毛症の実際の症例をご紹介いたします。

ポメラニアンの症例

他所のトリミングサロンにてサマーカットを注文した際に、毛が生えなくなる可能性を説明されずにカットした結果、毛がまばらになってしまった事例です。

チワワの症例

全体的に毛が生えてこなくなってしまっています。
ゴワゴワした毛質に変わり、ラグマットのような質感。

チワワの症例

こちらは全体的にまばらになり、毛質も変わってしまっています。
よく見るとショボショボとした毛が全体に。

チワワの症例

こちらは背中は生えてこないのに、脚部の一部は少し生えてくるようです。
尻尾もライオンにした状態のまま残ってしまっています。

チワワの症例

こちらは症例としてはかなり重症です。
毛がまばらに生え、皮膚が露出するまで脱毛してしまっています。
皮膚も鮫肌のように硬くなり、そこから数本の毛がいくつか生えているのがわかります。

チワワの症例

こちらも同様ですが、なぜか体の一部にラインが残り、他は皮膚が露出するまで脱毛してしまっています。
(モヒカンカットにしたことはない)

生えなくなる原因は実は解っていない

以前TBSラジオで獣医師の兵藤哲夫先生も言及しておられましたが、実はどれもハッキリとした原因はわかっていないのです。

原因といわれているもの
  • 換毛期のサイクルが狂うため
  • 短くカットしたことによる皮膚への紫外線ダメージ
  • バリカンによる熱(因果関係なし、当店で実証済み)
  • ホルモンバランスの崩れ
  • クッシング症候群など別の病気
パルコ3号

いずれも確かな原因はわかっていないのです

毛刈り後脱毛症の治療

ネットでは『2年ほど様子をみれば自然に生えてくる』といった記事も見受けられますが、当店の感覚からするとほぼないです。
サマーカットを辞めたとしても、その後自然に生えてきたという事例は正直いって無かったですね。

それと、皮膚病という診断で薬用シャンプーを処方される場合もありますが、ハッキリ言って薬用シャンプーで改善された試しもないです。
長年毛刈り後脱毛症に悩まれ、処方された薬用シャンプー持参で当店も根気よく続けてきましたが、結局改善の兆しはなかったですね。

それでも唯一、当店のお客さまのポメラニアンが、ホルモン注射によってある程度まで改善されたという例もあります。
まだ所々まばらに生え、毛質も硬いままですが、60〜70%位は戻ってきたかなという感覚です。
それでもやはり完治、とはなかなか言えないですね。

毛刈り後脱毛症の原因はホルモンの影響なのかなとは思うものの、
明確な原因がわからないので治療もわからないというのが現状です。

まとめ

実際には「毛なんていらん!」という飼い主さんもおり、生えなくても気にしないという方もいらっしゃいます。
むしろ抜け毛が少なくなって好都合くらいの意見もあります。

ですが、
『生えてこなくても大丈夫!』
『前もやったから大丈夫!』
『うちの子は大丈夫!』

とサマーカットをした結果、実際に生えてこなくなり後悔している方も事実おられることも確かです。
どうしてもやって欲しいと言われればカットしますが、やはりオススメはしないですね。

暑そうだと思うなら
・エアコンで室内温度を下げる
・日中の散歩を控える

抜け毛が気になるのであれば
・ブラッシングをする

・肥満気味であれば少し痩せさせる

こういった基本的な事からやっていくしかないと思います。

いずれにせよ、安易にカワイイから、暑そうだから、毛が抜けるからという理由でサマーカットはしない方がいいでしょう。

パルコ3号

まさに後悔先に立たず!
なってからでは遅いですよ!

長毛種はサマーカットしても大丈夫

シーズーやプードルなどのカットが必要な犬種は大丈夫ですよ!
ほっとくとロン毛やバルデラマになるような犬種は、夏場は暑いのでサマーカットでスッキリしてあげましょう!

追記

兵藤先生、亡くなられたんですね。
よくTBSラジオでリスナーからのペットお悩み相談など、気さくに分かりやすくお話しされていました。
とても残念です。
ご冥福をお祈りいたします。

リンク:兵藤動物病院